吉崎悟朗教授(海洋生物資源学部門)の研究グループは、1年間冷凍庫内で凍結していたニジマスから機能的な卵と精子を生産し、これらを受精することで正常な次世代個体を生産することに成功しました。本法を用いることで、絶滅危惧種を冷凍庫内で冷凍しておきさえすれば、たとえ当該種が絶滅した場合でも、現存する近縁種に冷凍魚由来の精原細胞を移植し、絶滅種の卵や精子を、ひいては受精を介して“生きた魚類個体”をいつでも再生することが可能になりました。
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里海乳酸菌・里海酵母
わが国の長い海岸線には多種多様な景観が存在している。環境省は里海とは「人手が加わることにより生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域」と提唱している。そこは、人と自然の領域の中間点にあるエリアであり、里山と同じく人と自然が共生する場所であり、伝統的な漁業、社会組織、食文化が生まれ、伝承されてきた場所である。環境中に生息している微生物は、基本物資の循環に大きく貢献しており、その一部は土壌環境や水産物、発酵食品、残渣・廃液処理等を介して、人々の暮らしと係わっている。近年、有用な微生物の探索のために、海外の発酵食品や極限環境中からの微生物探索が注目されているが、われわれは身近な沿岸域=里海環境から分離される乳酸菌および酵母のうち人間にとって有用な機能を持つものを里海乳酸菌・里海酵母と位置づけ、基礎から応用までの研究をつづけたいと考えている。今回はこれまでの研究成果の一部を紹介する。
伊豆赤沢海洋深層水からの有用酵母の探索
2005年(H17)より「海洋生物を用いた健康産業へ応用」というテーマで東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科応用微生物講座の今田教授と共同研究を行っている。現在は水深800m(日本最深)から取水される伊豆赤沢深層水中の微生物について研究中である。
今回は産業分野に対する有用微生物の研究にあたり、海洋深層水の一次ろ過装置内にセットしているバッグフィルターを探索源としてヒトの生活に長いつながりを有する酵母の探索と分離を行い、分離株については種の同定を行った。さらに分離された全ての株の培養上清に対して、ヒトの美容・健康分野を想定した機能性評価を試みた。その結果これまで分離した酵母85株のうち7株に美白作用が、また別の9株に抗酸化作用が確認された。
一般に海洋深層水中には微生物が少ないと考えられているが、これまでの我々の研究では生物量としては確かに少ないものの、生物種としてはむしろ表層よりもバラエティーに富んでおり、さらに表層とは異なるユニークな微生物が存在も期待される。
今後さらにこれら海洋深層水中の微生物の中から、産業利用上の有望株について研究を継続して行う予定である。
海洋微生物燃料電池の出力に関与するバイオフィルム中微生物の遺伝子解析
本研究では,海水中でバイオフィルムを付着させることにより,光触媒効果で電圧を得る微生物電池に関して,電池の出力改善のためカソード電極に付着するバイオフィルムの微生物相を調べ,電位上昇に寄与する微生物の同定を試みた。
実海水中に浸漬したステンレス鋼電極において,DLC皮膜は浸漬初期の電位上昇を高めるが,到達電位には影響しなかった。また,研磨状態やDLC皮膜の有無によるバイオフィルムの微生物相に違いは見られなかった。
さらに,バイオフィルムと海水中の微生物の群集組成を調べた結果,時季による相変化は両者で異なること,海水中の特定の微生物が電池形成に関与することが 明らかとなった。電池形成に関与する微生物として,Comamonadaceae科および Rhodobacteraceae科の真正細菌が同定された。