近年,食物アレルギー患者の増加に伴い,アレルギー食品不使用食品,アレルゲン除去食品の製造・販売が行われるようになっている。こうした食品の製造は多品種, 少量生産であるため,製造設備の一部を通常の食品と共有することが多いのが実状である。その場合,アレルゲンの意図しない混入が生じることのないよう,使用機器を十分に洗浄しておく必要があり,洗浄条件を合理的に設定するためには,機器表面に対するアレルゲン付着挙動を把握しておくことが重要である。しかしながら,水産物のアレルゲンについては研究例が非常に少ない。本研究では, 成人アレルギー原因食品の第1位であるエビに着目し, その主要アレルゲンのトロポミオシン(Tm)について,実際の食品に近い形態でのステンレス表面に対する付着挙動を調べた。
〔実験方法〕
ホッコクアカエビPandalus eousの身を蒸留水中または塩を含む緩衝液中(20mM HEPES,pH7.0)ですりつぶして得た抽出液1ml(タンパク質濃度1.5mg/ml)をステンレス粉末2g(比表面積0.57~0.58m2/g)と一緒にバイアル瓶に入れて密封し,25℃の恒温槽内で振盪した。2時間後,上澄み液中のTm濃度をELISA法で測定した。そして,初期濃度との差から,ステンレス表面への付着量を求めた。あわせて,BCA法でタンパク質のステンレス付着総量も測定した。
〔結果〕
蒸留水で抽出した場合,Tmの付着率が82.6%であるのに対して,タンパク質は43.9%に留まり,Tmは表面に比較的付着しやすいことが示唆された。また,付着したTmおよびタンパク質は,水洗浄で脱離しなかった。緩衝液で抽出したものは、抽出時の塩濃度を3%以上にすると,Tmとタンパク質の付着率はどちらも約60%程度となり,Tmの付着しやすさは失われた。
〔考察〕
吸着したタンパク質およびトロポミオシンは、水洗浄で脱離しないほど強固に付着しており,洗剤を用いる,たわしで擦る等の適切な洗浄方法を行わなければ,ステンレス表面に残存してしまう可能性が大であることが確認された。また,蒸留水で抽出した場合に見られるように,条件によっては,アレルギー原因物質であるTmが,ステンレス表面に選択的に付着残存する場合があることが明らかとなった。
以上,得られた知見はエビのアレルゲンを合理的に洗浄するための条件設定の一助になるものと考えられる。